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釧路地方裁判所 昭和39年(ワ)56号 判決 1965年2月24日

主文

被告会社株主総会の昭和三八年一一月一九日、取締役に岸憲宏、岸コト、日向寺忠二、監査役に大島三郎を各選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

(双方の申立)

原告は主文と同旨の判決を求め、

被告は請求棄却の判決を求めた。

(当事者間に争いのない事実)

被告会社は印章彫刻の製造販売、事務用品文具類の販売等を目的とし昭和三四年七月一日設立された株式会社で、一株の金額五〇〇円、発行済株式の総数は二〇〇〇株である。その株主の構成は原告が一〇〇〇株、岸コトが四〇〇株、岸勇、大島三郎、伊藤郷一、日向寺忠二、山田隆、岸憲宏の六名が各一〇〇株であるが、原告と岸コトは夫婦、岸憲宏はその子で、岸勇は原告の先妻の子であり、その余の株主はいずれも取引上の関係者ないし岸家と親密な間柄の者である。

被告会社設立当初原告、岸コト、伊藤郷一の三名が取締役に、大島三郎が監査役にそれぞれ選任され、原告は代表取締役に就任し、その後右役員はいずれも任期満了となつたが後任者の選任がなされなかつたため引続きその職務を執行して来た。

しかるところ、被告会社は昭和三八年一一月二〇日主文第一項記載の臨時株主総会(以下本件株主総会という)の決議がなされたとしてその旨の変更登記をした。

(原告の主張)

本件株主総会はその招集も開会もなく、その決議は存在しない。

後記被告主張事実はいずれも争う。

(被告の主張)

一  原告および岸勇の両名に対し本件株主総会の招集手続をしなかつたことは認めるが、その余の株主についてはその招集手続を履践した。すなわち、

原告は従来放浪癖がありしばしば行先も告げずに旅行に出て数日ないし数週間帰宅しないことが度重つたが、昭和三八年一〇月三一日夜も格別理由もないのに家族に行先も告げずに旅行に出てしまつた。岸コト・岸憲宏としては原告が一家の主人であり被告会社の代表者でもありその不在は何かと生活上も営業上も支障を来たすのでこれを探索したが原告の行先が判然せずまた帰宅する様子もなかつたので、止むなく被告会社の業務の円満な運営を期して取締役選任のための臨時株主総会の招集を思いたつた。

そこでまづ岸コトは取締役である伊藤郷一にこれを相談したところ同人は取締役辞任の意向もありこれに賛成し全面的に協力するからよろしく手配してくれとのことであつたので、岸コトは伊藤郷一との右話し合いを以て取締役会に代えることとした。

次いで岸コトは昭和三八年一一月中旬日向寺忠二に対し会議の目的事項を記載した株主総会招集の書面を発し、また山田隆、大島三郎、岸憲宏に対してはその頃口頭で右の招集通知をしたところ、日向寺忠二からは一切を岸コトに一任する旨の書面と共に自己の印鑑を送付して来、また山田隆、大島三郎からは株主総会には出席できないが適宜総会を進行されたい旨の口頭の返答があつた。

かようにして岸コトおよび岸憲宏の両名は昭和三八年一一月一九日被告会社において本件株主総会を開会し、各自自己の議決権を行使したほか岸コトが日向寺忠二、山田隆、大島三郎の各議決権を代理行使し、主文第一項記載の役員変更の決議をなしたのである。

従つて、本件株主総会の決議は存在し、単に原告その他二、三の株主に対する招集通知を怠つた点に瑕疵があるにすぎないが、株主総会招集手続に関する諸規定の立法理由ならびに原告が行方不明となつた事実および被告会社の株主の構成から見るときは、右の瑕疵は本件株主総会の決議を無効ならしめるものではなく単に取消原因となるにすぎない。

二、かりに以上の主張が理由がないとしても、次の理由により原告の請求は棄却さるべきである。すなわち、

被告会社の営業は元来原告先代の個人企業であり原告と岸コトが結婚した昭和一五年頃は原告は先代の営業の手伝をするという形であつたが、翌昭和一六年一〇月に原告の企業として独立し、以後岸コトの血のにじむような苦労もあつて商売が順調に発展し、やがて経営合理化のため会社組織に変更したもので今や従業員も一〇数名に上り市内有数の印判店となるに至つている。ところが原告には前記の放浪癖がありこれが被告会社の営業上の支障となつているばかりか、原告はその後釧路市に帰つて来ているのに被告会社および妻である岸コト方に戻らず、ひたすら自己の不在の間になされた本件株主総会の瑕疵を攻撃し、若し自己が代表者として被告会社に復帰した暁には会社所有財産は他に売却し岸コトを放逐し、被告会社の営業を不能にしてしまうと放言しているのである。

およそ株主総会の決議取消ならびに決議無効および決議不存在の確認を訴求する権利は株主の共益権に属するものであるから、会社自体の利益のために行使すべきものであり、単に株主の利益を目的としてはその行使が許されないといわねばならない。従つて前記の目的に出た原告の本訴請求は認めるべきではない。

(証拠関係)(省略)

(争点に対する判断)

被告は原告および岸勇以外の各株主に対しては岸コトが本件株主総会の招集をしたと主張するが、岸コトが被告会社の代表取締役の職務を行い得る地位になかつたことは前記当事者間に争いのない事実に照らして明らかであり、原告および岸勇の両名に対してはなんらの招集手続もなかつたことは被告の自認するところであるからその招集手続にそれなりの瑕疵があることは明らかである。また証人日向寺忠二、山田隆、岸コトの各証言によれば岸コトは本件株主総会の招集につきその会日の日時場所を特定して各株主に通知を発したわけではなく、単に日向寺忠二には電話で、山田隆、大島三郎には口頭で、それぞれ原告の行方不明の事実を告げこれを機会に被告会社の役員を変更する意向を有するにつき意見を徴したにすぎないことが認められる。

そのうえ右各証言によれば本件株主総会が開かれたという昭和三八年一一月一九日には真実被告会社株主総会が開かれたわけではなく、各株主が被告会社に参集したという事実すら存在せず、これある如き記載のある甲第四号証は単に司法書士に依頼して虚偽の事実を記載した臨時株主総会議事録の体裁を整えたものにすぎないことが認められ、他にこれに反する証拠はない。

そうすると本件株主総会の決議は全く存在しないものと認められる。

なお被告はその主張の事情の許においては原告の本訴請求は許されないというが、本件株主総会の決議に関する瑕疵が軽微な場合ならばともかく、前認定の如く全く不存在と認められる以上、その不存在確認の請求に対し裁判所が裁量によりこれを棄却することは相当でないし、本件に顕われた全証拠に照らしても原告の本訴請求が不法であるとか権利濫用にあたると認めるに足る事実も認め難いから、被告の主張は採用できない。

よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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